『つげ義春 池上遼一 ガロ 1968 前衛マンガの試行と軌跡』、すごい本です!

単行本(双葉社):2018年12月19日


























 

 緑と赤の学習用暗記シートに用いられるプラスチックで作られた本書の表紙は不思議な効果を生んでいる。その赤と緑は不規則なまだら模様で、赤色のエリアは、池上先生の『夏』での1ページと『禁漁区』での1ページがあらわれ、緑色のエリアはつげ義春氏の『ねじ式』の主人公が機関車に乗る姿が見える。もちろんカバーをずらせば、見える絵も変わるのだ。

 帯には、「つげ義春と池上遼一の“密やかな共闘”」とうたっています。つげ義春氏と池上先生はある時期、一緒に過ごしてました。それは、1966年池上先生が上京し、水木しげる氏のアシスタントとして働き始めたときから、水木しげる氏のもとを離れ、独立するまでの間です。(正確には、つげ義春氏が旅立ってしまうまで。)それが、1966年、1967年、1968年です。
 本書は両氏が『ガロ』という雑誌に発表した短編を上手に編集したものです。解説で、その当時のことを長々と(超うれしい企画です。)語っている高野慎三氏の編集によるものだと思います。
 高野慎三氏は、この当時、『ガロ』という雑誌で編集を担当していた方です。そして、水木先生のアシスタントとして働くために上京した池上先生を水木先生宅へ連れて行った方でもあります。この当時、水木プロでのつげ義春氏や池上先生と親交を深められていました。その高野氏が長々と語っていただけたなのですから、その解説は強力なのです。
 収録された作品は『ガロ』(青林堂)という月刊誌に1967年1968年に掲載されたものです。
 池上遼一.databaseとして語らせていただくと、1967年、1968年に『ガロ』に掲載された作品は、本書のもので全てではありません。収録されていないつげ義春氏の作品は『紅い花』をはじめとして、『長八の宿』、『二岐渓谷』、『オンドル小屋』、『ほんやら洞のべんさん』です。池上先生の未収録作品は、1967年12月号の『三面鏡の戯れ』、1968年2月号の『風太郎 ジャンジャン横町の風が泣いている』です。もちろん、他誌に発表された作品も収録されていません。そして、本書に選ばれた作品達は高野氏によって選ばれたものだと思われます。

 本書のすごいところは、つげ義春氏の作品と池上先生の作品を混ぜて一冊の本にしてしまおうという発想です。しかも、二人の作家のみ。なのに、私は、違和感を感じることなくすーっと読み終えてしまいました。きっと編集に何かトリックがあるのではないかと私は思っています。
 読み終えて思ったのは、つげ義春氏の作品はすごいということです。きっと、私は近々、つげ義春作品を全て読んでしまうに違いありません。『山椒魚』や『ねじ式』は以前にも読みましたが、今でも強力な印象が残る作品です。さらに、本書に収められた作品を読んだだけでも、扱われている題材も様々だし、そしてその視点も様々で、本当に楽しませてくれるのです。

 こんな中、池上先生の作品はちょっとと思われた方がいらっしゃるかも。池上先生の作品が、つげ義春氏の作品に飲み込まれているかもと思われた方も。
 ここで、データベースとして語らせていただこう。はっきり言って、この企画は池上先生にとって酷!です。
 そもそも、つげ義春氏は、池上先生が尊敬する師なのです。池上先生が水木プロダクションに来たとき、水木しげる氏に会えたことより、つげ義春氏に会えたことに感動しているのですから。
 ちなみに、つげ義春氏は1954年から作家活動をスタートされていて、多くの作品を描かれているのです。その作品は、当時すでに高い評価が得られていたのです。一方、池上先生はデビューしたて。『罪の意識』が『ガロ』に初めて掲載されたのは1966年の9月号です。この作品は、新人の入選作品となり、この作品を機に上京し、水木しげるプロダクションでのアシスタント生活が始まりました。本書に収録された『夏』は『ガロ』での2作目、『罪の意識』から数えて4作目です。『地球儀』は6作目、『風太郎 片目男の独白』でも掲載16本目なのです。レベルが違うのです。“共闘”、それはどうなの?と感じてしまったしだいです。
 さらに、いわせていただくと、『山椒魚』、『李さん一家』、『ねじ式』といえば、つげ義春氏の代表作ではないか?!という具合ですよ。

 “密やかな共闘“をうたった高野氏。でも、そこには、意図があるんだろうなと感じています。“密やかな共闘“とはどんな共闘だったんだろう?って想像すると楽しいですよね。
 一方、本書を読んでいただいた読者の中で、もし、池上先生の作品はすごいぞと思っていただけたのなら、それは池上先生への一番の褒め言葉となるはずではないでしょうか。

 私は、本書を手にして、読んで、うれしかったです。久しぶりに得した気分でした。つげ義春氏と高野慎三氏、池上先生の世界観がものすごく伝わったこと。池上先生は当時、楽しかったんだろうなと感じられたこと。つげ義春氏の作品はすごい、ちゃんと知るべきだと感じられたこと。つげ義春という師に近づきたい池上先生の頑張り。そして、いろいろ当時のことを想像することができたこと。
 この本によって、ものすごくモチベーションを上げていただいたことに感謝です。出版社の方々、こういう本をたくさん送り出してください。お願いします。

『くノ一異聞 天使は舞いおりた』再掲載開始!

COMIC 魂 2月号(はちどり/主婦の友社):2019年 1月12日

 今月号の『COMIC 魂』から『くノ一異聞 天使が舞いおりた』は再度、掲載されてことになりました。最近の作品なのになどと思っていたのですが、2009年に連載がスタートした作品ですから、もう10年の歳月が流れているわけです。
 池上先生のオリジナル作品です。お楽しみください。

明けましておめでとうございます。そして、祝20周年!

Otoshibumi:2019年1月1日

 長い間、池上遼一.databaseをご利用いただきありがとうございます。
 1999年6月に立ち上げましたこのサイトも、20年という歳月を迎えようとしています。そして、約30万人のファンの方々においでいただきました。本当に感謝しかありません。ありがとうございます。

 さて、今まで100MBのWebサーバーにて、サイト運営をしてきましたが、容量は膨れ上がり限界のところまで来てしまいました。Webに関する技術も大きく変わり、いつの間にか取り残されてしまいました。
 今年は20周年。さらに、これからの10年を充実したサイトにするために、引っ越しを決意しました。これで、これからは容量を気にすることなく、どんどん情報をアップすることができるようになります。
 ただし、その引っ越し作業は膨大な量で、当分の間、コンテンツの移動が生じます。また、これを機に作り直したいコンテンツもあります。さらに、新しい技術の習得が必要なことから、ご利用いただく皆さんに大変ご迷惑をおかけします。長い目でご利用いただけると幸いです。

 さあ、気分新たに頑張ります。今年もよろしくお願いいたします。