つ、ついに、単行本化!涙、涙!『追跡者×拳銃野郎』

単行本(立東舎):2019年1月18日
























 

 辻真先:原作、池上遼一:作画の『追跡者』が、ついに、単行本として発売されました。どんなに待ったことでしょう!?感謝、感謝です。

 この作品の初出は1968年の週刊少年キング(少年画報社)の17号から45号までの29回の連載です。50年という歳月が流れ、やっとやっと単行本化されたのです。
 50年もの間、発表されなかった理由は原稿が散逸されてしまったからです。辻真先氏は、『ぼくたちのアニメ史』(岩波書店)で、

池上遼一初めての連載『追跡者』はぼくの原作で「少年キング」に載ったのだが、その原稿がまるごと消えたのはたまげた。出版したいというので、双葉社の編集者が一年がかりで少年画報社の倉庫を探したが、見つからなかった。だからいまだに上梓できない。

と語っています。

 このほかにも、『追跡者』の単行本化の動きはありました。最近では作品の掲載誌からスキャニングして復刻する方法が盛んに行われていて、この技術を使って『追跡者』単行本化するプロジェクトがあったのです。サイトでは、その動きに協力することにもなっていました。しかし、作品の掲載誌は1968年当時の初出誌しかありません。初出誌は印刷の状態がよくなかったのです。さらに、紙質がよくなくて絵が裏面まで染み出してしまっていて、裏写りが激しい状態でした。このため、プロジェクトを断念されたことがありました。

 今回のプロジェクトは、「掲載誌からスキャンし、丁寧に復刻」されたとのこと。スキャンによる復刻の技術が上がったとの話を聞いたこともありますが、復刻のための作業は相当大変だったと予想されます。
 ファンとして、この単行本を手にすることができて、とてもうれしく思っています。感謝、感謝です。

 さらにうれしいことに、『拳銃野郎』が併せて収録されました。これで、『週刊少年キング』に掲載された作品が一冊の単行本に収録されたことになります。
 『拳銃野郎』は、池上先生が商業誌へのデビューとなった作品です。この作品以前の作品は『ガロ』に発表していますが、原稿料がなかったことを池上先生は語っています。つまり、池上先生にとっては初めて漫画を描いて大きな収入を得ることになります。『白い液体』や『すばらしき時代』という貸本も1967年に発表していますが、週刊少年キングの収入は大きかったと予想されます。
 さらに、3回ではありますが“連載”を初めて経験したことになります。17ページ+16ページ+16ページで、49ページの大きな作品となりました。
 
 『追跡者』は初の原作者付きの作品です。初タッグは週刊で29回の連載になりました。池上先生は、今まで多くの原作者付きの作品を描かれています。そのきっかけになった作品でもあるのです。

 本書は、池上先生にとって本格的な作家活動をスタートさせた1968年の重要な作品集となるのです。『追跡者』がもっと早くに単行本化されていたなら、池上先生の評価は大きく変わっていたと予想されます。遅くとも、『男組』で爆発的な支持を得た1974年頃に発表されるべきだったと私は考えています。

 さて、この作品以前の1967年の池上先生の作品を知りたい方は、

  『ガロ 1968 前衛マンガの試行と軌跡』 (双葉社)

が、タイムリーに発売されています。また、この作品以後の作品集として、

  『強力伝』 (少年画報社)

をおすすめします。

『つげ義春 池上遼一 ガロ 1968 前衛マンガの試行と軌跡』、すごい本です!

単行本(双葉社):2018年12月19日


























 

 緑と赤の学習用暗記シートに用いられるプラスチックで作られた本書の表紙は不思議な効果を生んでいる。その赤と緑は不規則なまだら模様で、赤色のエリアは、池上先生の『夏』での1ページと『禁漁区』での1ページがあらわれ、緑色のエリアはつげ義春氏の『ねじ式』の主人公が機関車に乗る姿が見える。もちろんカバーをずらせば、見える絵も変わるのだ。

 帯には、「つげ義春と池上遼一の“密やかな共闘”」とうたっています。つげ義春氏と池上先生はある時期、一緒に過ごしてました。それは、1966年池上先生が上京し、水木しげる氏のアシスタントとして働き始めたときから、水木しげる氏のもとを離れ、独立するまでの間です。(正確には、つげ義春氏が旅立ってしまうまで。)それが、1966年、1967年、1968年です。
 本書は両氏が『ガロ』という雑誌に発表した短編を上手に編集したものです。解説で、その当時のことを長々と(超うれしい企画です。)語っている高野慎三氏の編集によるものだと思います。
 高野慎三氏は、この当時、『ガロ』という雑誌で編集を担当していた方です。そして、水木先生のアシスタントとして働くために上京した池上先生を水木先生宅へ連れて行った方でもあります。この当時、水木プロでのつげ義春氏や池上先生と親交を深められていました。その高野氏が長々と語っていただけたなのですから、その解説は強力なのです。
 収録された作品は『ガロ』(青林堂)という月刊誌に1967年1968年に掲載されたものです。
 池上遼一.databaseとして語らせていただくと、1967年、1968年に『ガロ』に掲載された作品は、本書のもので全てではありません。収録されていないつげ義春氏の作品は『紅い花』をはじめとして、『長八の宿』、『二岐渓谷』、『オンドル小屋』、『ほんやら洞のべんさん』です。池上先生の未収録作品は、1967年12月号の『三面鏡の戯れ』、1968年2月号の『風太郎 ジャンジャン横町の風が泣いている』です。もちろん、他誌に発表された作品も収録されていません。そして、本書に選ばれた作品達は高野氏によって選ばれたものだと思われます。

 本書のすごいところは、つげ義春氏の作品と池上先生の作品を混ぜて一冊の本にしてしまおうという発想です。しかも、二人の作家のみ。なのに、私は、違和感を感じることなくすーっと読み終えてしまいました。きっと編集に何かトリックがあるのではないかと私は思っています。
 読み終えて思ったのは、つげ義春氏の作品はすごいということです。きっと、私は近々、つげ義春作品を全て読んでしまうに違いありません。『山椒魚』や『ねじ式』は以前にも読みましたが、今でも強力な印象が残る作品です。さらに、本書に収められた作品を読んだだけでも、扱われている題材も様々だし、そしてその視点も様々で、本当に楽しませてくれるのです。

 こんな中、池上先生の作品はちょっとと思われた方がいらっしゃるかも。池上先生の作品が、つげ義春氏の作品に飲み込まれているかもと思われた方も。
 ここで、データベースとして語らせていただこう。はっきり言って、この企画は池上先生にとって酷!です。
 そもそも、つげ義春氏は、池上先生が尊敬する師なのです。池上先生が水木プロダクションに来たとき、水木しげる氏に会えたことより、つげ義春氏に会えたことに感動しているのですから。
 ちなみに、つげ義春氏は1954年から作家活動をスタートされていて、多くの作品を描かれているのです。その作品は、当時すでに高い評価が得られていたのです。一方、池上先生はデビューしたて。『罪の意識』が『ガロ』に初めて掲載されたのは1966年の9月号です。この作品は、新人の入選作品となり、この作品を機に上京し、水木しげるプロダクションでのアシスタント生活が始まりました。本書に収録された『夏』は『ガロ』での2作目、『罪の意識』から数えて4作目です。『地球儀』は6作目、『風太郎 片目男の独白』でも掲載16本目なのです。レベルが違うのです。“共闘”、それはどうなの?と感じてしまったしだいです。
 さらに、いわせていただくと、『山椒魚』、『李さん一家』、『ねじ式』といえば、つげ義春氏の代表作ではないか?!という具合ですよ。

 “密やかな共闘“をうたった高野氏。でも、そこには、意図があるんだろうなと感じています。“密やかな共闘“とはどんな共闘だったんだろう?って想像すると楽しいですよね。
 一方、本書を読んでいただいた読者の中で、もし、池上先生の作品はすごいぞと思っていただけたのなら、それは池上先生への一番の褒め言葉となるはずではないでしょうか。

 私は、本書を手にして、読んで、うれしかったです。久しぶりに得した気分でした。つげ義春氏と高野慎三氏、池上先生の世界観がものすごく伝わったこと。池上先生は当時、楽しかったんだろうなと感じられたこと。つげ義春氏の作品はすごい、ちゃんと知るべきだと感じられたこと。つげ義春という師に近づきたい池上先生の頑張り。そして、いろいろ当時のことを想像することができたこと。
 この本によって、ものすごくモチベーションを上げていただいたことに感謝です。出版社の方々、こういう本をたくさん送り出してください。お願いします。